●ぬいぐるみでわかる母性
子どもに父性や母性が育っているかどうかは、ぬいぐるみの人形を抱かせてみればわかる。しかもそれが、三〜五歳のときにわかる。父性や母性(父性と母性を区別するのも、おかしなことだが……)が育っている子どもは、ぬいぐるみを見せると、うれしそうな顔をする。さもいとおしいといった表情で、ぬいぐるみを見る。抱き方もうまい。そうでない子どもは、無関心、無感動。抱き方もぎこちない。中にはぬいぐるみを見せたとたん、足でキックしてくる子どももいる。ちなみに小三児の約八〇%の子どもが、ぬいぐるみを持っている。そのうち約半数が「大好き」と答えている。
●男児もぬいぐるみで遊ぶ
オーストラリアでは、子どもの本といえば、動物の本をいう。写真集が多い。またオーストラリアに限らず、欧米では、子どもの誕生日に、ペットを与えることが多い。つまり子どものときから、動物との関わりを深くもたせる。一義的には、子どもは動物を通して、心のやりとりを学ぶ。しかしそれだけではない。子どもはペットを育てることによって、父性や母性を学ぶ。そんなわけで、機会と余裕があれば、子どもにはペットを飼わせることを勧める。犬やネコが代表的なものだが、心が通いあうペットがよい。が、それが無理なら、ぬいぐるみを与える。やわらかい素材でできた、温もりのあるものがよい。
●悪しき日本の偏見
日本では、「男の子はぬいぐるみでは遊ばないもの」と考えている人が多い。しかしこれは偏見。こと幼児についていうなら、男女の差別はない。あってはならない。つまり男の子がぬいぐるみで遊ぶからといって、それを「おかしい」と思うほうが、おかしい。男児も幼児のときから、たとえばペットや人形を通して、父性を育てたらよい。ただしここでいう人形というのは、その目的にかなった人形をいう。ウルトラマンとかガンダムとかいうのは、ここでいう人形ではない。
また日本では、古来より戦闘的な遊びをするのが、「男」ということになっている。が、これも偏見。悪しき出世主義から生まれた偏見と言ってもよい。その一つの例が、五月人形。弓矢をもった武士が、力強い男の象徴になっている。三〇〇年後の子どもたちが、銃をもった軍人や兵隊の人形を飾って遊ぶようなものだ。どこかおかしいが、そのおかしさがわからないほど、日本人はこの出世主義に、こりかたまっている。「男は仕事(出世)、女は家事」という、あの日本独特の男女差別思想も、この出世主義から生まれた。
●ぬいぐるみで育つ母性と父性
話を戻す。愛情豊かな家庭で育った子どもは、静かな落ちつきがある。おだやかで、ものの考え方が常識的。どこかほっとするような温もりを感ずる。それもぬいぐるみを抱かせてみればわかる。両親の愛情をたっぷりと受けて育った子どもは、ぬいぐるみを見せただけで、スーッと頬を寄せてくる。こういう子どもは、親になっても、虐待パパや虐待ママにはならない。言いかえると、この時期すでに、親としての「心」が決まる。
ついでに一言。「子育て」は本能ではない。子どもは親に育てられたという経験があってはじめて、自分が親になったとき、子育てができる。もしあなたが、「うちの子は、どうも心配だ」と思っているなら、ぬいぐるみを身近に置いてあげるとよい。ぬいぐるみと遊びながら、子どもは親になるための練習をする。父性や母性も、そこから引き出される。
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